最高裁判所第二小法廷 昭和40年(オ)1066号 判決 1966年10月07日
上告人
地迫美智徳
右訴訟代理人
佐藤通吉
被上告人
立岡一二
右訴訟代理人
安楽半二
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人佐藤通吉の上告理由第一点について。
民法五五〇条但書の趣旨とするところは、書面によらない贈与契約であつても、すでにその効力が生じ、かつ、その履行が終つた場合にあつては、その履行の終つた部分については、右贈与契約の取消を許さないとする趣旨である。したがつて、贈与契約が停止条件附のものであつて、まだ右停止条件が成就していない場合にあつては、たとえ、事前にその引渡があつても、なお、右贈与契約は、取り消すことができるものと解すべきである。されば、農地法三条一項による都道府県知事の許可を停止条件とする書面によらない農地の贈与契約にあつては、右停止条件の成就前であれば、たとえ右農地の引渡があつた後であつても、右贈与契約を取り消すことができるものと解するのを相当とする。これを本件についてみるに、原判決の認定したところによれば、亡末吉は、上告人に対し、農地法三条一項による鹿児島県知事の許可を停止条件として、口頭によつて本件農地を贈与し(なお、原判決が、本件農地の停止条件附権利を譲渡したと判示しているものではないことは、その判文上明らかである。)、かつ、その引渡を了したが、右亡末吉は勿論、その相続人である被上告人およびケサノは、右許可申請手続さえしていない、というのであるから、本件農地の贈与契約の停止条件は成就していないものというべく、したがつて、被上告人のした右贈与契約の取消を容認した原判決には、所論のような法令違背の違法はない。所論は、独自の見解に立つて原判決を論難するものであり、また、所論引用の大審院判例は、本件とは事案を異にし、本件には適切ではない。されば、論旨は、採るを得ない。
同第二点について。
原判決は、本件農地の贈与契約は、鹿児島県知事の許可を停止条件とする贈与契約としては、成立しているが、右許可がない以上、贈与の効力は発生しない旨を判示し、右停止条件附贈与契約の取消を容認しているものであるから、原判決には所論のような違法はない。論旨は、原判決を正解しないで論難するものであつて、採るを得ない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)